地球環境の危機が叫ばれ、その保護が人類共通の重要なテーマになってすでに久しい。また1990-1999年は国連の「国際防災の10年」にあたり、全地球規模で自然災害の防止や軽減のための研究や施策を進める決議がなされている。これが実行されるためには、まず人々が地球を正しく理解し、それがかけがえのないものであること、人類と地球環境の調和が大切であることを明確に認識する必要がある。
これに果たす学校教育の役割はきわめて大きい。それにもかかわらず、学校教育現場では”理科離れ” や”地学教育軽視”が日増しに進みつつある。全国的に高等学校における地学教育は、大学入学試験科目として地学を選択する生徒が少ないことを主たる理由として縮小傾向にある。高知県下では特に顕著で、地学が開講されている高等学校はきわめて少ない。これは当然のことながら地学を専門とする理科教師の新規採用や配置の減少をまねき、地学教育縮小傾向に益々拍車をかけることになっている。そればかりか、現在在職している地学を専門とする教師の存在意義を脅かしかねない状況すら生まれている。このような状況下では、多くの高等学校で必然的に理科の地学分野の教育は、地学を専門としない教師が担当することになる。これでは地球4 6億年のダイナミズムを子供達に十分理解させ、地球環境保護や防災の意識高揚につなげることができるかおおいに疑問である。これはなにも高等学校に限ったことではない。小学校や中学校の教育現場でも多かれ少なかれ同様の問題が存在する。特に小学校や中学校では抽象的な概念の把握よりも、具体的な事物の観察や実験が重要であるにもかかわらず、時間や教師の資質に制約されて十分なされているとはいえない現実がある。このような現状を我々は看過することはできない。地球に対する無理解と、人類の傲慢な態度は、いつか必ず手痛いしっぺ返しをくらうことであろう。
幸いなことに高知県内では、まだまだ多くの自然が健全な姿をとどめており、自然、とりわけ地学の研究・学習対象には事欠かない。また周知のように、高知県は明治時代のナウマンに始まる日本における地学研究発祥の地でもある。さらに近年、プレートテクトニクス、特に付加体地質学が陸上で実証され、世界中の多くの研究者に注目されたが、その舞台となった地こそ高知である。毎年世界や日本各地から多くの学生や研究者が高知を訪れることは、高知がいかに重要な地であるかを雄弁に物語っている。
さらに、高知県は名だたる被自然災害県でもある。毎年の風水害は言うに及ばず、斜面崩壊、土砂崩れ、地盤沈下は日常茶飯事である。また南海道地震の再来も予想され、それによる災害は甚大なものになると推定される。この自然災害防止には、産・官・学・民の四位一体の協力が必要である。特に先の三者は、防災上最も基本的な信頼に足る災害予測図(ハザードマップ)を早急に作り上げ、住民に公開しなければならない。しかし、この公開には住民の関心と理解、それを支える防災教育が大切である。すなわち、災害をいたずらに恐れるのではなく、その自然災害をもたらした現象の本質を正確に理解することが肝要である。これこそが災害を未然に防ぐ最大の方法である。それにもかかわらず進行する最近の若者の”理科離れ”や理科教育から地学分野の切り離しはまさに憂慮に耐えない。しかし、先に述べたことからも明らかなように、今こそ災害や環境問題を糸口にして地学教育を拡大・充実する時である。我々はこれに気付くまでに、あまりにも多くの牲を払ってきたことを忘れてはならない。生き生きとした地球像を子供達に伝え、地球を慈しむ心を育むには、常に新しい知識を貪欲に吸収する意欲と、それを充分咀嚼し、わかりやすく解説する力量が大人や教師に求められる。すなわち、たゆまざる研鑽が必要になる。
このような時代的要請がある今こそ、高知県内における地学学習の機会確保、地学研究の発展・充実、 地学の普及をめざす時である。これをてこに住民の健全な自然観を養い、地球環境保護や防災に取り組む時である。そこで、この期に高知県内に在住する地学の学習や研究に興味・関心のある人々が集う場として”高知地学研究会” (仮称)を設立する。本会は上記の趣旨のもとに、年齢、性、職業を問わず、少しでも地学に興味のある方々に広く門戸を開放するものである。本会は会員相互の親睦をはかり、研究発表会、巡検(地質の現地観察) 、講演会、出版等をおこなう。また地学の啓蒙に努める。
1995年(平成7年)3月21日